2016年11月7日月曜日

【知見共有「人事評価の新潮流~GE9ブロックを止めたのは本当だった!PartⅡ」】
□分類:人事マネジメント

 2016.10.16(日)に、僕が「人材育成学会」の研究会で聴いたGE社の「新しい評価の取組み」について、PartⅠとして、その変革の背景について、レポートした。
 今回PartⅡでは、この「新しい評価の取組み」の運用のポイントを(講演から得た情報の範囲内で)記載したい。

 今回のGE社の評価制度のポイントは、以下の2点である。
  1No Rating(レイティングの廃止)
     レイティングを付け、それを説明するためのプロセスを廃止
  (2No Curve(正規分布の廃止)
    評価の調整の際に、あらかじめ定めた正規分布率(ベルカーブ)に収めるのを廃止

②これまでの評価についてのGE社の問題意識

 「インダストリアルインターネット」を核にしたビジネス変革を促進するために、GE社はこれまでの評価のあり方について、以下のような問題意識を持った。

企業として、成果を追い求める姿勢、つまり、成果主義は当然捨て去ることはできない。しかし、これまでの目標管理(MBO)および評価システムは、成果を上げることに繋がっていたのか?
  具体的な問題意識は以下の4点。
  (1)これまでのMBO-評価の仕組みは、社員が成果(パフォーマンス)をあげることを促進してきたか?
  (2)年2回の評価フィードバックは、社員が成果(パフォーマンス)をあげることを促進してきたか?
  (3MBOで設定する「目標」は、誰のため、何のためにあるのか?
  (4)上司が評価を決めるために使っている時間は果たして生産的なのだろうか?

ここでのキーワードは『プライオリティ』。我々のプライオリティ、つまり、最優先事項は、顧客の求める価値と会社にとってのインパクトであると再認識したのである。これが上記(3)の答えだ。

「目標」は、この「プライオリティへの注力」が重要となる。
しかも、ビジネス環境の変化にアジャイルに対応するためには、この「プライオリティ」は変動する。
よって、「プライオリティへの注力」にむけて、「目標」も変動する。
年に2回の目標設定と評価では、パフォーマンスを上げることには寄与しなくなる。これが上記(2)の答えだ。

また、上司は部下の評価を決めるために、部下の査定のレポートの作成に多大な時間や工数をかけているが、「目標」が変動する状況のなかでは更なるレポート作成工数が発生する。これは全く生産的でない。これが上記(4)の答えだ。

結論として、これまでのMBO-評価の仕組みは、社員が成果(パフォーマンス)をあげることを促進できないことに考えが至る。これが上記(1)の答えだ。

では、GE社はどのような評価システムの運用を図ろうとしているのか?



GE社の考える「新しい評価システム」の運用



(1)「パフォーマンス・マネジメント」から「パフォーマンス・ディベロップメント」への転換


 上記図にあるように、上司と部下の接触頻度は、これまでは期初に多く、以降は頻度が下がる傾向にあった。それをGE社は以下のように転換する。

 a.期初の上司と部下での「プライオリティの設定」

  期初に何を(プライオリティ)、どのように(GE Belief)を行うかを擦り合わせる。GE Beliefは、GE  
Valuesが進化した求められるコンピテンシーである。プライオリティの設定基準は、会社やビジネスが重視する結果(インパクト)に依拠する。

  b.上司と部下との「タッチポイント」
  
  「プライオリティの設定」後は、月2回程度の上司と部下の対話の場である「タッチポイント」を重視する。
  ここでは、
    ・部下の活動の現状把握を行い、課題共有する
    ・上司として、その部下の活動課題の解決に向けてのコーチングを行う
    ・この対話を通じての「インサイト(本質的な洞察)」をリアルタイムに共有する
    ・「プライオリティ」の変更があれば、このタッチポイントの場で行う

 つまり、上司は部下を管理するのではなく、部下の成果に向けての活動をより促進する役割を担う、「パフォーマンス・ディベロップメントが求められる。


(2)評価の運用

 評価時においては、上司は「タッチポイント・サマリー」のみを使用する。これは評価期間内に行われた部下との「タッチポイント」での記録の要約である。
 しかも、SABCDなどのレイティングは付さない
 部門での評価会議では、メンバーの顔つきの組織図が広げられ、該当のメンバーの報酬額を上司間で決定する。
 ここにおいて、あらかじめ定めた正規分布率(ベルカーブ)に収めるのを廃止している。
 では、どのように報酬額が配分されるか?

 ・部門に報酬原資が渡される
 ・上司間で、該当のメンバーの「タッチポイント・サマリー」を共有・議論し、報酬額決定する。

 該当メンバーの直属の上司は、そのメンバーの業績や日々の活動について「タッチポイント」を通じて理解しているので、上司間で納得づくの話し合いがなされ、報酬額を決定する。


 
 (終わりに)

 米国ではGE以外でも、1No Rating(レイティングの廃止) 2No Curve(正規分布の廃止)を行い評価システムの変革に取り組んでいる企業が増えている。
 これを実現するためには、GEの「タッチポイント」のような、上司と部下の対話の場が欠かせない。
 しかも、そこでは、インサイト&コーチングが前提となる。

 2012年にビジネス渡米した際、米国Facebook社HRDマネジャーと面会する機会が持てた。
 その時の彼の話が印象的だった。
 「我が社は上司と部下の対話の場を重視している。そのための空間も用意した
 「えっ、コミュニケーションはFacebookで行っているのでは?と、君は言うのかい!? No、あれではインサイトを共有できないよ。やっばり面会して対話しないとね!」


                                                                                                            2016.11.7


 
※このBlogの内容は、2017.10.16に行われた「人材育成学会」での講演内容をベースに、他メディア(Web、記事、雑誌、書籍、論文など)の情報を盛り込み、著者によって記されたものである。
 よって、本Blogの内容はGE社および「人材育成学会」としての正式な発表内容ではないことを言及しておきます。